悩み抜いた末に掴んだ幸せ
友人と会った帰り道、一人で考え事をしたかったため、電車を途中で降りて新宿の街中をひたすら歩いていた。
すると携帯が鳴った。菜穂からだ。
電話に出るなりいきなり、「今暇? 飲みにいこ!!」
相変わらず、誘いはいきなりでいつも変な時間帯。
23時15分。今飲みに行くと確実に帰れない。
次の日、仕事も遅いので終電を諦めて飲みに行くことにした。
「久しぶり!!」
そう言いながら、駆け寄ってきた。
1年ぶりくらいだろうか…。
そして、いつものように再会のハグ。懐かしい。
菜穂とは、友達の中でも出会いが特殊で、同じ一人飲みが好き同士で、御徒町のバーで出会った。
酔っ払ってダル絡みされたのがきっかけで、第一印象は最悪。
でも、なんか面白かったから一緒に飲んだ。
それから会う時は毎月のようにどっかで飲んでた。
だけど、お互い忙しくなり、いつの日からか会わなくなっていった。
お店に入るなり、当時の話などで盛り上がった。
無駄に元気なところ、気が強いところ、少し抜けてるところ…。
出会った頃と何も変わってない。
変わったことと言えば、左手に銀色のリングをつけていることくらい。
しかも一昨日の話らしい。(だから電話してきたのか…)
喜びよりも驚きの方が大きかった。
なぜなら、出会った当時は荒れに荒れていたから。それゆえの一人飲み。
そして、彼女はバイセクシャルであった。
そして、出会った時には彼女と彼氏がいた。
いわゆる二股だ。
表には出さなかったし、バイセクシャルであることもあまり公言していなかった。
ただ、共通の友人がいない自分には話をしてくれた。
バイセクシャルゆえ、結婚は無理かもしれないと諦めていた彼女を知っていたため、結婚していたことに驚きであった。
そして、結婚した理由を話してくれた。
「実は、半年前に付き合ってた彼女と別れたの。それと同タイミングくらいに彼氏からプロポーズされたの。でもすぐは答えを出さなかった。正確には出せなかった。」
そこから、その理由やこれまでについて色々語ってくれた。
当時から愚痴や悩みを聞いてた僕には、彼女の気持ちが痛いほどわかった。
バイセクシャルであることを彼氏を始め、家族にも公言していないこと。
LGBTやジェンダーレスというのが世の中に浸透するようになっていても、彼女は周りを気にして言えなかったのだ。
言って変な目で見られるのが怖かったから。
それで荒れてたところ、なんか絡みやすくなんか抱えてそうなちょうどいい年下の若造がいたから絡んだのだ。
そして、結婚を踏み切ったきっかけを話してくれた。
「最近、山ちゃんと蒼井優が結婚したじゃん? それについての記事とか見て、自分で思うことがあって結婚を決めたの。」
予想外とも言える結婚で世間をざわつかせる中、ある投稿がネットで反響を呼んでいた。
それは、蒼井優が結婚前に語っていた価値観について。
「『誰を好きか』より『誰といるときの自分が好きか』が重要らしいよ」
byヒャダイン
この言葉を見て、共感し、彼女はさらにいろんな記事を見て、考え、ある答えで納得したらしい。
「結婚する相手=一番魅力的な人」ではないということ。
要はタイミングの問題だということ。
彼女にとって、一番好きな人は当時付き合っていた彼女。
そして、一番自分好きな自分で入れる相手が彼氏。
付き合っていた彼女は背中を押したい存在。
彼氏は、自分の背中を押してくれる存在。
結婚してもいいかなと思った時、付き合っていたのは彼氏。
彼女とは半年前に別れている。
だから、結婚した。
なんかすごい納得してしまった…。
結婚してもいいってなった時、たまたま彼氏と付き合ってた。
彼氏と別れて彼女と付き合っていたら、彼女と同性結婚をしていたかもしれないとのこと。
過去付き合った相手を振り返った時に結婚した彼氏より付き合っていた彼女の方が彼女にとって魅力的なのは事実で、一番であるのは今も変わらない。
だが関係性はもう終わっている。そしてその彼女とは連絡は取れない。
その幸せに固執してしまうと、一生一人になるのではと考えたらしい。
そして後悔はしてないと言った。
その言葉を言った彼女の目には曇りがなかった。
ちなみにバイセクシャルであることは彼氏には伝えていないらしい。
彼に自分のことで心配事を増やしたくないからだそうだ。そういうところは実に彼女らしかった。
まっすぐ歩んでいる今の彼女の姿に僕は涙した。
すると彼女ももらい泣きし、一緒に泣いて、一緒に泣いてることで笑った。
お店を出て、方向が違うため、その場で別れた。
そしていつものようにハグ。そのハグでなぜかまた泣いてしまった。
次はもらい泣きしないでバカにされた。
「あんたも変なことに固執しないで幸せになりなよ」
そう言い残し、彼女は去っていった。
SNSで繋がっていない僕らが次出会うのはいつになるのだろう。
どちらからか連絡しないと会うことはないだろう。
また出会うのかもしれないし、もしかしたらもう会うこともないのかもしれない。
それは誰にもわからない。
もう出会うことはなくても、これからの人生の中でかけがえのない友であったことは変わらないだろう。
彼女に出会えたことに感謝しながら、その日はカプセルホテルに泊まり、眠りについた。
※この話はフィクションです