額縁の中の少女

ここは展示されているものを評価する評価場。

真っ白な空間にたった1つだけ何かが1週間展示される。

1週間展示され終わったあとどうなるかは誰も知らない。

誰かの手に渡って大切にされるのか、それともただのゴミと化すか。

 

今日も始まった評価会。

いつものようにいろんな人が訪れ、評価していく。

評価するといっても見た目など目に見えるものでの評価。

結局そんなもんだ。

 

私は笑顔がない。

笑ってないゆえに、この子は性格が悪いだのなんだの言われる。

この時間が一番憂鬱だ。

結局本質なんか見ようとしない。

そして誰が作ったかでしか評価しない。

 

私を作ったのは、誰にも認知されてない人。

もし、私が有名な人から生まれていれば、今の評価はガラッと変わっただろう。

芯が強そうだとか、まっすぐ向かっていく強そうな人だとか。

 

こんな表面上の評価のどこが評価なのか。

みんな、自分が言いたいように言って満足してるだけ。

自己満な人ばかり。

こんな憂鬱な時間が続く。

 

だが、今日は違った。

1人小さな女の子が家族に連れられてやってきた。

相変わらず、周りはテキトーなことを言う中、彼女だけはまっすぐと私を見つめた。

 

そして彼女は微笑んで私を指を指した。

「お姉ちゃん、笑ってるね。とても優しそうだね。」

 

その瞬間、私の頬から涙がこぼれた。

そしてあなたにだけ微笑んだ

「ありがとう」

自由世界

ある日、世界は自由を手に入れた。

仕事も、お金も言語も、文化もなんでも自由。

やることなすことがすべて自由な世界。

何も言われない自由な世界。

素晴らしい。世界中の人々はそう思った。

これで平和で自由な世界ができる。

これで幸せになった。

そうなるはずだった

 

そして、世界は終わった。

全世界の人々が自由になる。

それは世界の崩壊を意味していた。

これまで予定通りにいっていたことが予定通りにいかなくなる不平不満。

何をしても自由な世界。

自分中心の世界。

相手のことなんか関係ない。

 

残ったのは、ある程度の制限とある程度の自由を築き上げたもののみ。

 

自由。

それは果たして何を指すのだろうか。

 

Give&Take

今日は、サークルの飲み会。

みんなで集まるようなことに関しては私が積極的に行う。

私はみんなに喜んでもらえることが好きだから。

 

 

集金したり、飲み物がない人の飲み物を頼んだり、二次会の場所をどうしようか考えたり、なんでもやった。

そんな中、あまり話したことない後輩に声をかけられた。

「先輩、前々から思ってたんですけど、なんでそこまで世話役になるんですか?」

 

「だっても何もみんなのために何かするの好きだからさ」

そう答えると、フッと鼻で笑われた。

「先輩って、周りが全然見えてないんですね。」

 

意味がわからなかった

意味がわからないけど、何も言えなかった。

続けて後輩は言った。

「みんながやりたくないことをやってくれる。それは素晴らしいことです。でも今の先輩は度を超えてる。よく考えてみてください。誰がそこまでやってほしいって言いました? 今の先輩は、愛情に飢えて暴走した、ただの迷惑女ですよ。」

 

言い返せなかった。

周りを見渡せば、みんなは会話を楽しんでる。

会話に入れてないのは自分だけだった。

恋愛においてもそうだ。付き合ったとしても最終的に重いと言われて振られていた。

良かれと思ってやったことが重いと言われた。

 

誰かのために何かすることは好きなのは事実だ。

感謝されたり、喜んでる顔を見たり。

それで自分自身も嬉しくなる。

でも、最近の私は満たされていなかった。

満たされてない自分を満たすために、さらに必要以上のことをしていたのだ。

 

そう、この世界はGiveTakeなのだ。

外見という名の容器

人が多く行き交う交差点。出勤前の満員電車。

今日も多くの人が移動し、多くの人とすれ違う。

すれ違うけれど、誰も見向きもしない。気にも止めない。

なぜなら、透明だから

 

人間はとても面白い生命体だ。

生きるためにエネルギーを補給し続けるだけでなく、新たな遺伝子を残すために繁殖もする。

そして、感情があり知性がある。そして、複雑で多様な遺伝子によって姿が一人一人違う。

わかりやすい外見があれば、逆にわかりにくい内面も存在する。

しかしこの世界においては外見はただの容器。内面は自分自身でありとても不安定な物質だ。

 

容器は時が進むように時間と共に大きくなったり性質を変えたりする。

それと同じように、その容器に収まる中身も同じく成長するにつれて大きくなっていく。

そのはずだった。そうなるものだと思っていた。

だが、現実はそう甘くはなかった。

 

この世界では、容器が100%満たされている状態が、魅力的な人間として見られる。

容器から中身が溢れ出てしまっている人は、誰もがその人に目を向け、耳を傾ける。

容器のキャパを超えた中身は、本来の形状を変化させ、人々を魅了した。

 

反して、容器が満たされていない場合、その人は余った部分が透過している。

ちゃんと透けずに実体化できてるのは、中身がある場所だけ。

 

僕は、中身を成長させようと色々やってみたが大きくなることはなかった。

納得がいかなかった。

学歴だってある。家だって、割と裕福な家系だ。

言われたことだってちゃんとやってきた。

なのになぜ僕の中身が成長しないのかがわからなかった。

 

中身が成長していない人は、すぐにわかってしまう。

透過している=成長していないと見なされてしまう。

そのためこの世界では、一定の年齢を超えても満たされていない場合は生きていくことが難しくなる。

年齢なんてただの数字でしかなかったのだ。

 

もう誰も見てくれないのなら、諦めよう

僕は、誰もいない世界で生きることにした。

誰もいない。誰もいないから自分のことを見る人もいない。孤独だ。

誰もいないこの場所は、生きていくための環境もない。

だから、自力で生きていくことにした。誰かのためではなく自分のために。

僕は、この場所で生きていこう。誰からも見られることもなく、気づかれることもなく、ひっそりと時が来たらいなくなろう。

そしてこの日を境に、僕は社会から離脱した。

 

 

月日は流れた。あの日からどれくらいの年月が経ったのだろうか。わからない。

だが、あの日と確実に違うことがある。

根拠はないが満たされているような感覚がした。

この場所はいい。全てのものが実体として存在していて、生命としての循環もある。

あの日と違って、穏やかになっていた。

いつも通りに過ごしているとふと、刺激がほしくなった。

そして久々に人がいる場所へ行ってみることにした。

 

そこは大都会。外観が多少変われど、多くのビルが建ち並び、相変わらず多くの人が移動し、多くの人がすれ違う。

懐かしい風景を見ながら、当時のことを思い出していた。

思い出しながらも、前とは何か違うことに気がついた。前とは違う何か

視線を感じる。人々はすれ違うたびに僕のことを見ている。

なぜだ。僕の何がおかしいんだ

モヤモヤを抱えながら、歩き続け、ガラス張りの建物の前で立ち止まった。

そして目の前のガラスを見て、変化に気がついた。

そう、そこには僕がいた。はっきりと実体として存在する僕がそこにあった。

僕は唐突に理解した。

 

「そうか。僕は僕なんだ。」

 

この話はフィクションです。

「信者」という名の毒薬

「本日はありがとうございました。」

その終わりの言葉と共に大勢からの大きな拍手がなった。

今日も多くの人から握手を求められ、褒めの言葉をもらいながら会場を後にした。

 

高層マンションの一室。

ドスッとソファーに腰をかけ、いつものように外の景色を眺めた。

都心の中心部に建つこの建物からの景色は絶景だ。

この世界で成功して、この部屋を買ってからというもの、毎日のようにこの景色をみてきた。

だが、いつからだろう。この景色が綺麗だと思わなくなったのは。

いつからだろう。生きていることが辛いと感じ始めたのは。

 

「すごいですね。」「さすがですね。」「尊敬します。」

これらの言葉を聞くのがもう辛い。苦しい。

 

そんな言葉はもう聞きたくないと思い、期待外れなことをやってみた。

だが、周りからの声は変わらなかった。

次にみんなの前で人としてありえない非道なことをしてみた。

だが、逆効果で「斬新だ」「新しい」と言った声が挙がり、さらに僕の評価が上がった。

自分の中での評価が下がる中、周りからの評価は上がる一方だ。

 

自分の中での限界を超え、大好きだった景色を眺めながら、重力に身を任せてその日、落下した。

 

 

翌日のニュースは、彼の死について大きく取り上げられた。

多くの人が悲しみに暮れる中、後を追うように、多くの人が死亡したというニュースも流れ、世間を騒がせた。

 

「あぁ。僕は一体、何だったんだろう。」

 

この話はフィクションです。

愛情中毒

私はかわいい。

かわいいから私の周りにはいつも人がいる。

困った顔をすれば、いつも誰かが助けてくれる。

悲しい顔をすれば、いつも誰かが慰めてくれる。

 

私が怒れば、いつもみんなが宥めて甘やかしてくれる。

私が楽しみたいと思えば、いつもみんなが楽しませてくれる。

 

なんて幸せな世界なんでしょう。

みんな頑張っちゃって、バカみたい。

私みたいにみんな素直になっちゃえばいいのに。

 

私は私のことが好きな人達さえいればいいの。

私のことが好きならば、私に尽くせばいい。

私に尽くしてくれたら、私が幸せを与えてあげる。

 

私のことを好きになれない人なんて大嫌い。

私のことを見れないなんて本当にありえない。

きっと素直になれないのね。可哀想に。

 

みんなもっと私のことを見て。

もっと私のことを好きって言って。

もっとかわいいって言って。

もっと私に尽くして。

もう、私って本当に幸せ。

 

 

とある倉庫。

たっぷりと蜜が入った壺の中で溺れてる虫がいた。

そう、蜜に溺れていた。

その溺れる姿を見て、ある人は言った。

「滑稽だな。」

 

その虫を救うことなく、壺の蓋をそっと閉め、倉庫を後にした。

 

この話はフィクションです。

振り返るとそこに僕がいた

試合終了のホイッスルがなった。

僕たちは試合に負けた。

 

この大会が僕らにとっての最後の大会だった。

この大会のために、僕らはこれまで以上に練習を重ねてきたし、これまで以上に団結してきた。

 

僕たちに実力がないのはわかっていた。

だからこそ、これまで以上に団結し、これまで以上の練習をしてきたのだ。

だが、現実はそう甘くはなかった。

この日、僕らはこの世の現実を知った。

 

気持ちだけでどうにかできるほど、この世の中は甘くないということを。

 

気持ちのレベルなんて誰にも測ることはできない。

でも、絶対負けない。負けたくないという気持ちはどこの誰よりもあったはずだ。

だが、負けた。

 

これが真実であり現実だ。

気持ちが相手より劣っていたのか。

それは違う。劣っていたのは実力なんだ。

 

どんなに気持ちを込めたとしても、勝負で勝つときは勝つし、負けるときは負ける。

それだけ気持ちは尊いものであったのだ。

 

悔しい。死ぬほど悔しい

でも、僕らは敗北という経験を得ることができた。

 

今は、悲しみに暮れるだろう。

だが、僕たちは次に向かって進んで行かなければいけない。

なぜなら、まだまだこの先長いのだから。

 

だから、今は思いっきり泣こう。

別に1週間や2週間落ち込んだっていい。

でも、最後には過去の楽しかったこととかを思い出してみんなで笑おう。

 

そしてみんなそれぞれの道へと進んで、その先で勝利を掴めばいい。

この先の人生、まだまだいろんなことが起こる。

辛くなったら、今日のことを思い出してほしい。

そして、僕たちは全力で取り組んだという、かけがえのない財産を持っていることを忘れないでほしい。

だから前に進み続けよう...。

 

 

「頑張れ」

そう呟きながら、彼らの背中を見つめていた。

彼らと自分を照らし合わせて、ふと微笑んだ。

そして、向かっていた道に向かって再び歩き出した。

 

この話はフィクションです